ウラメにでた日々

4月から短大生

日々のどうしようもないセイショウドウをつらつらと精神安定の為に小説も書いとるわ

houkai

きっとすごいスピードで凄い吸収、集中力だっただろう。

 

 

仕事から帰って夜10時から直ぐに湯を沸かし、机を片付け

鍋を釜、引き戸を襖に見立て

畳の節目を歩幅で想像毎日12時まで練習した。

 



表千家の本を床に平置きし

個々の道具の使い方(割稽古)

男のみの(男点前)

運びから拝見、終いまでの通し稽古をした。

 



先生の声を思い出し注意された所を気をつけた。

本を見ながら出来ても実際、稽古に行くとさっぱりだった。

先生に話しかけられたり、一回間違えるともう頭は真っ白だった。

だから本を見ないでも出来るように練習を重ねた。

 



僕は先生に色んな事をよく相談した。

先生は僕等の事をきっとよく知っていた。

前に離れた方がいいと言われ恨めしくも思った。

彼女の情報をえたいという気持ちもあったが何より

 

僕はやっぱり先生が好きだった。




この人には敵わないし、きっと敵ではないんだろうなと思っていた。

例え僕がボロボロになっても見放さないだろうと思えた。

 

 


先生には下らない質問もよくした。

コダワリは必要ですか?

考えることはいい事ですか?

僕はおかしく見えますか?

数奇とはなんですか?

まるで五歳児の様に質問した。



 

『彼女は今何をしているか』と言う質問は除いた




休日は茶道具屋へいったり、オークションで茶道具を買いあさった。

モチベーションを保つ為に彼女との思い出の場所へいき想いに浸った。

 

 



まさしく生きる理由は執念だけだった。

 

成果や結果が予想でき期日も決まる確信出来た時

人は物凄い集中力と行動力を出せる。

 


ただ、それは一瞬の煌めきなのだが

 

その煌めきはとても美しく力強く超新星爆発のように光の記憶だけ残り

現存維持できなく微塵も残らない



 

一服の間の炭


香をたたせ、温もり、愉しみを醸しだし


興醒め残るは冷めた湯と灰

 

 

 


僕は彼女に連絡しクリスマスに会う約束を何とかとりつけた。

彼女はひどく嫌がっていた。

 

この数ヶ月触れる事、連絡さえもずっとしていなかった。

最高のもてなしが出来るようにディナーを予約し

気に入りそうなアンティーク調のデスクランプをプレゼントで持っていった。

それは彼女に全て秘密にして会う約束だけをした。



食事を一緒になんて絶対拒否されるのは分かっていたから




 

当日ディナーもプレゼントも驚き喜んでくれた。

お金を出せば一瞬の心を掴む事は容易に出来る。

一瞬の隙が出来れば後はそこに全力を注ぎ込むだけ。

今日の僕は全てを捨て爆ぜる眩い光の記憶で有ればよい。


 


彼女に今までの僕の思いを告白したら彼女は泣いて謝った。

僕は平静を保つように(いつものように)明るく振舞った。

一緒に手だけ繋いで帰った。

 

 

 

 

一緒の電車に乗り、一緒の駅に降りた。

何ヶ月振りだっただろう、すごく前の気がする。

嬉しさと懐かしさが本当に辛く

寂しさに包まれた。

 



僕はもう少しだけ居たい。

家に来て欲しい。

こんな日だからと懇願した。

僕は今日しかないと思っていた。

彼女は嫌がったが断れない感じで仕方なくついて来た。

 


僕はまた手を差し伸べた。

彼女は拒否したが強引に手を繋いだ。

手を繋いでいるのにさっきより距離を感じる。

歩くペースも遅く、ダダをこね泣き疲れた後の子供を引き連れているような二人だった。

 


手を繋いでいる事が辛くなり僕は離してしまった。

彼女の足取りは少し良くなった。


 

部屋に入るのも躊躇っていた。

入ったら部屋の配置や道具の変化に彼女は一つ一つ驚いた。

そのたびに僕は身を削られる思いだった。

僕は生きていたんだよと伝えたかった。

 


彼女が訪れなくなってから僕は部屋に帰りスイッチを付けると

部屋の違いが無いか期待していた。

なんて僕の心情をを彼女は一寸も感じていなかった。

想像してくれないのだな。

と確認できてしまった。


 

 

僕はサンタの顔のペーパーウェイトを返した。

 

 

少し待ってもらいお茶の用意をした。

そして薄茶と濃茶の点前を披露した。驚き感心していた。

僕は自慢気に続きまして~という感じで思いの丈を記したノートを手渡した。

まるで僕の怨念のようなノートは数十日間の日記であり数時間では読み終えられない量だった。

彼女は預かりたいと言ってじゃあそろそろと帰り支度をはじめた。



僕は前から抱きしめようとした。

 

 

もうダメだった。

彼女が居ないと僕はダメだった。

もう完全に万策尽きてしまってセックスしか考えられなかった。

 

 

彼女は物凄く抵抗した。

手を触れる事ですら拒否り、キスも出来なかった。

怯えた目で彼女はケモノをみるように睨んだ。






そして憐れむように『ごめん』と言った。

 

 

 

 

 




 




『ふざけるな!』


『お前、俺がどれほどの事をしてどれだけお前のためにやってきたかわかるか?

 

バカかてめぇ病気なんて関係なぇ、俺だって病気だからわかんだよ。』

 

『てめぇは病気を口実に甘えてるだけだ!

 

家から出ようとせず、誰も受け入れず。

 

俺がどれほどお前を変えようとしたか、どうしたらいいか努力し願っていたかわかるか?

 

わかんねぇから俺にそんな態度とり続けてるだろうけど。

 

結局お前はごめん・・て謝りゃみんな助けてくれると思ってんだよ!

 

 

普通誰も助けてくんねーし、助けてくれたなら恩返しすべきだし

 



僕の本当の告白は彼女へはじめての暴言だった。

 

 

彼女はそれでもごめんしか言わなかった。

 

いや『ごめんなさい』と言った。

 ごめんなさいしか彼女は言わない。


彼女はいつもと違い泣かずにいた。

そしてずっと僕を真っ直ぐ見つめた。

もう彼女は泣かない。

 

 



『見るな、見んじゃねーよ』

 


初めて彼女の前で僕は泣いた。

震えて小さくうずくまり何も見たくなかった。

 



もう全て終わったと思った。

 



彼女が近づいて僕に触れようとした。

それは浮浪者に施しをしているような憐れみ。

彼女は誰より慈愛に溢れていた。

だからこそ病んだんだ。

 


 

僕は触るな!と手を撥ね退け怯えて一人震えていた。

彼女は泣きもせず、荷物をまとめ部屋を出て行った。

 


 

僕は認めた。

認めるしかなかった。



荷物を持っていったあの時に

 

彼女の中ではもうこのゲームのような恋愛は終わっていたんだと

そしてこのゲームは最初から(二人)用ではなかった。

周りから見ても終わっていたから

両親も、職場の同僚、上司、医者、カウンセラーも協力的だったんだ。

唯一僕だけが(二人)用だと勘違いしていた。

 


 

僕は走った。

気付いたら彼女を追っていた。

 


この道を何度夜送り届け、行き来しただろう。

でもこんなに怖くて長く感じた事はない。

『待って』と叫んだ。

僕は思いっきり夜道で叫んだ。

 

 

 

しかし、声が出ていなかった。

 


彼女は僕の足音に気付き走って逃げた。

彼女はいつもと違う道を通って僕を巻こうとした。

 


彼女の足音と僕の足音の中に彼女の啜り泣く声も混じっていた。

声が出ないのでとりあえず追いつき引き止めようと走った。

 


でも角を曲がりいつもと同じ道に戻って彼女を見た時

僕は走れなくなってしまった。

 

 

僕は生まれて初めて過呼吸というのを知った。


 

荷物を失った時より数倍身体が重い

道端にへたり込み数分動けなかった。

振り返りもせず走り去った彼女の姿が何回もフラッシュバックする

 

 

 

 

 

僕は牢屋に戻り、自分で鍵をかけた。

 

 

 

 

 

もう死のうと思った。